安倍首相辞任

安倍首相辞任のニュースは、丁度昼休みにネットニュースで知った。

辞任がなぜこのタイミングなのかは疑問が残るが、一つの決断、しかも1国の首相の決断である以上は政治的決断である。

ついこの間、「職を賭して国会に臨む」旨の発言をして、所信表明をしたばかりである。

その「職を賭して」発言の真意は以前としてはっきりわからないが、聞いてすぐに感じたのは「退路を断つ」という感情的な決断主義でしかないことだ。テロ特措法をめぐり、あえて参院第1党の民主党に内閣の生殺与奪権を与えるかのような発言であり、仮に参院で差し戻されても衆院で再度法案を通すこともできるとの目算だろうが、法案の正当性が担保できない状態に陥る。

そのような状況につながる「職を賭して」発言から数日で辞任。今日の辞任会見の印象はその発言よりも、進むことも退くこともできず、そのまま精魂つきたというメッセージを強く感じた。


総裁になる以前にも、2004年の参院選敗北に典型的なように幹事長としての実績もなく、先の参院選直前の人事管理に表れたように政治家としての決断能力もなく、あるのは副官房長官時代からの拉致をめぐる強気な発言とそれによる人気のみ。そして人気がかげった後、最期に残ったのは政治の混乱。


戦後レジームから脱却」し、「美しい国へ」という、この1年弱の「観念の政治」は一体何だったのか。


せめて次期総裁には、従来型のバラマキ公共政策ではなく、新自由主義でもなく、第三の道を「地道に」行ける人物になってもらいたい。


ちなみに以下は、新・安倍内閣発足時の曽根泰教教授の発言。
http://www.sankei.co.jp/ronsetsu/seiron/070831/srn070831000.htm

正論】新・安倍内閣発足 慶応大学教授・曽根泰教

 ■政権立て直しの軸足をどこに置くか

 ■新たな手法で「分権」はかるのが鍵

 ≪「自民支持、安倍ノー」≫

 安倍内閣内閣改造の目的は2つある。1つには求心力の回復であり、もう1つは、次の総選挙への布石である。

 求心力の回復といっても、自民党内の求心力と世論を味方につける求心力とは同じとはいえないが、通常は、世論が味方につけば党内の求心力も回復してくる。

 この内閣改造で、安倍内閣が目指すところは明確になっただろうか。確かに、町村信孝外相や高村正彦防衛相などを配置し重厚さは増したし、「お友達内閣」の批判からはまぬがれたであろう。しかし、これで自民党支持をもう一度取り戻すことができるのだろうかというと、簡単ではないと気がつく。

 小泉・安倍と続く自民党は選挙ごとで得票の増減があったが、単純化すると、小泉時代になり「自民党はノーだが、小泉イエス」が約4割いた。ところが、先の参院選挙では「自民党支持だが、安倍ノー」が約4分の1出てきた。なぜこうなったのかは小泉人気の有無だけではなく、原因があるはずだ。

 かつて自民党は、大きく2つの支持層から成り立っていた。経済成長を支えてきた産業と地方や中小企業など「弱者」といわれる層である。ところが、バブル崩壊以来、日本の産業に元気がなくなり、成長率も0〜1%の間になってしまい、成長の分け前を地方に再分配するという手法も取りにくくなった。

 ≪自民支える3層の選択≫

 小泉・竹中時代の中心的な手法は「構造改革」であり、日本を支えてきた産業の構造転換で国際的な競争力を回復しようとした。もうひとつが不良債権処理であり、また財政出動をしないで景気回復をするという手法であった。

 当然、この手法は痛みを伴うが、自民支持層は、小泉改革についていったし、無党派層からも大量の支持を獲得した。それがピークに達するのが2005年の郵政選挙である。つまり「弱者保護」を訴える旧来の自民党を「抵抗勢力」とすることで、拍手喝采(かっさい)を得て圧勝する。その時には本来、痛みを被っている20代までも小泉支持に回った。

 ところが、安倍首相になり打ち出した政策は、かつて自民を支えていた「保守層」に対するメッセージを発することで、独自性を狙うとともに、小泉改革に渋い顔をしてきた層を取り込もうとした。それが、「戦後レジームからの脱却」であり、憲法、教育などの保守的イデオロギーを訴える戦略であった。しかし、もっと支持が増えるはずだったが、増えるどころか逃げていった方が多かった。

 自民を支える(1)新自由主義的経済改革を支持する層(2)地方や農業などの「弱者保護」を訴える層(3)保守的イデオロギーを支持する層−の3層をすべて足すことができれば最大になるが、(1)は(2)と矛盾する。「成長を実感に」は(2)の人を逆なでするメッセージだったのではないか。また、(3)は「年金記録消失問題」や「失言」などで、選挙的には空振りに終わった。

 安倍政権が立て直すべき政策的中心はどこにすべきか定める必要がある。再び、小泉・竹中の経済路線には戻れないだろう。かといって、(3)の安倍らしさを訴えて、靖国や国家イデオロギーの強調では、外交関係が持たないだろう。また、地方や農業・中小企業など「格差」や「弱者保護」を訴える層に対して、公共事業を復活させたのでは、古い自民党に戻ってしまう。新自由主義でない分権で「格差」解消をはかることができるのかが鍵だろう。

 ≪野党に握られたカード≫

 この対世論戦略の他に、自民党内の求心力回復がある。人事を有効に使って、求心力を高めるという一般論と一度求心力を失ったら回復は難しいという経験則がぶつかるところである。安倍内閣が次の総選挙で勝つことができるならば、求心力の回復はあり得る。それがないと、レームダックと化し、努力すればするほど事態は悪い方に向かう「悪循環」に陥る。

 もうひとつ重要なことは、衆院は自公で3分の2の議席があるが、参議院過半数が野党に握られ、今までのような議会運営ができなくなる。参院が本格的に独立の意思をもつようになったときにどう対応するのか、経験がない世界に入り込むことになる。もちろん、衆院の3分の2で再可決という方法もあるが、国政調査権、問責決議、参院先議の法案、承認人事など、今まで以上に、野党の手にカードが握られることになる。

 このような状況下でこそ力を発揮するのが、本当の政治的リーダーシップであり、内閣主導だろう。(そね やすのり)

(2007/08/31 05:01)