第十九回

あとがき
 本研究の作成過程は、奇しくもセキュリティに対する社会的関心を高める事件が起こった。少し例を挙げると、JR西日本福知山線脱線事故アスベスト被害の増大、耐震強度偽装問題、少女の殺害事件、海外でもスマトラ沖地震鳥インフルエンザなど。これらの事件によってセキュリティに対する関心が高まったことは予想外のことであり、想像以上にセキュリティに対する意識が過剰なものとなっていることについては複雑な思いである。
 
 セキュリティやソーシャル・キャピタルに関心を持ったのは、どうやら自分の経験が関係しているようだ。研究テーマについては、冷静に客観的に研究できるように、自分の経験とは離れたテーマで社会的に意義のあるテーマを選んだつもりだったが、終わってみれば自分の経験の周りにテーマが結晶化した。
 自分の努力ではどうにもならない「社会」という領域を始めて感じたのは、阪神大震災であり、さらにはっきり身にしみて感じたのは全国的な試験である大学受験だった。多くは語らないが、自分の出身地は京都府の北部だったため、阪神大震災の影響を受けたとはいえ最小限の影響であったし、自分の出身地には進学校・進学塾がなかったため高校卒業するまで塾に行ったことがなかった。
 京都北部に生まれたために「たまたま」震災の影響が最小限であった。そして京都北部には進学校・進学塾が無いので高卒で就職した同級生も多い中、自分は「たまたま」大学院にまで来て「社会」について研究が出来ている。もちろん自分で選択した部分もあるのだが、これらの経験は本論と無関係ではないだろう。

 本研究は、多くの先行研究の肩に乗っているし、そして何よりも様々な人たちとの対話に負っている部分が少なくない。そうした人たちに感謝の念は強く持っているのであるが、名前を挙げると数が多くなりすぎるので、ここでは3人の方に感謝を申し上げたい。
 矢澤修次郎先生(一橋大学大学院教授)には学術論文がどういうものなのかを教えていただいた。最終的な執筆段階でさほど苦労せずに済んだのは、問いの設定段階での先生のコメント・指導のおかげである。
 町村敬志先生(一橋大学大学院教授)には、本研究のテーマに対して応援していただき、暖かく見守っていただいた。先生との対話から得られた様々なアイデアは、本研究作成に大きく資するものであった。
 そして曽根泰教先生(慶應義塾大学大学院教授)には、大学院で研究するきっかけを与えていただいた。私の卒論に対して叱咤激励していただいたことの返事になっているかわからないが、本研究をとりあえずの返答とさせていただきたい。

 最後に、自分の好き勝手を許してくれた家族に感謝したい。

                                 2006年新春
                                  芦田拓真