読書について再考

過去にも(このブログの前身となったHPでの2001年、2002年の記事で)読書について書いているのですが、この週末ひょんなことから友人との対話を通じて、読書について考えてみました。

元は友人とのメールのやり取りですが、自分の送信文をブログ用に加工してアップします。メールを書いているなかで、自分の考えていることが結構明らかになったので。

以下、友人が本を紹介してくれたことへのレス文。

そもそも今、自分がどんな本をよく読むかということから考えてみた。すると学術的な本が多く、いわゆる書店に平積みされているようなビジネス書は読まなくなっている。そんなビジネス書を沢山読んでいたのは大学1年のころで、その内にだんだん読まなくなってしまった。そしてそれはなぜかなと考えてみた。

その理由としては、本屋で立ち読みして済ませてしまうのと、売れてるビジネス書については誰かがこういう本だよって言っていたり、雑誌の書評にも載って自然に耳に入ってくるから。「ランチェスター戦略」も「仮説思考」も「アメーバ経営」も「見える化」も、そうした耳学問と立ち読みで知りました。フラット化と富の未来は、厚くて自分の目で読みたかったから買って読んだけども。

あと自分の本を買う方針としては、すぐにわかる・できるハウツー本ではなく、「何故そうなのか」がわかって目からウロコが落ちる体験をさせてくれる本です。そのままでは使えないけど、チューニングすれば幅広く使える本ですね。

それをふまえてお勧めの本を紹介します。
原研哉(2003)『デザインのデザイン』岩波書店、です。原さんはプロのデザイナーで無印良品のデザインも手がけておられます。そんな著者がデザインとはものの本質を探り、カタチにする営みだとして、モノの意味を読み変えたり、新しい意味を付与したりすることについて考えた結果です。個人的には、沢山なるほど体験ができました。非常におすすめです。

読書論として薦めるのは、福田和也(2001)『ひとつき百冊読み、三百枚書く私の方法』PHPです。文芸評論家の福田氏の方法論。読む目的が読む方法を決める、なぜ現場取材が必要なのかについて書いています。題材が文芸ということを除けば、読み書き考えるという基本的な方法が得られます。
同様の本では、立花隆(1984)『知のソフトウェア』講談社でもいい。古いが今でも有用だし、この手の本の走り。

速読、精読かという手段が重要なのではなく、そもそも何のために読むのかという目的が大事だということ。読書の質量を上げるには、そもそも余分な本を買うな、間違って買ってしまったら読むのを止めろという点は非常に同意できます。(というより、上の本で学んだから当然同じ意見)

そして、あなたはなぜ本を読むのかという目的を聞かれ、答えたのが以下。

『何故本を読むのか?』の答えとしては、やはり自分の中に問題意識があるから。1.コンサル・SEとして、2.社会人として、3.個人として、それぞれの問題意識のためだと思う。

1.コンサル・SEとして、技術面を強化しなきゃということで、今読んでいるのが岩谷宏の『Javaの哲学』。読み終わったら、マーチン・ファウラーの『アナリシスパターン』とか、エリック・ガンマの『デザインパターン』とか読みたい。このレベルの問題意識は数日から数か月、長くて1年のタイムスパンとして考えている。

2.次に社会人として、マネジメントに興味があります。初発の問題意識は今参加しているプロジェクトが上手くいってなくて、病気になったり休職する人が多くて、クライアントファーストのためにプロジェクトメンバーが不幸になるのはおかしいっていうのがあった。自分も鬱状態になったしね。それで開発手法の本読んだりして、これから『ずっと受けたかったソフトウェアエンジニアリングの授業』とかケント・ベックのXP本を読もうかなと。アジャイルも興味がある。読んだ中では、マイケル・クスマノの『ソフトウェア企業の競争戦略』の開発手法の章が参考になった。最近読んでたドラッカーとか技術経営(MOT)とか『知識創造企業』とか『オルフェウス・プロセス』もこのレベルの話として考えている。雑誌では、「日経情報ストラテジー」を取ってます。このレベルの問題意識は1年から数年、長くて10年のタイムスパンとして捉えている。

3.最後に個人としての問題意識。前に言ったように、「たまたまこうだったけど、他でもありえたかもしれない」っていう偶発性で大きく生活が左右される社会はおかしいっていう問題意識がある。自分がたまたま教育環境の貧しい地方に生まれたこと、でもたまたまそこに生まれたから阪神大震災の被害が少なかったこと、その地方でもたまたま本が家にたくさんあるような教育に理解のある家に育ったこと・・・。

そんな問題意識から、具体的には教育とか地方の情報化に関心を持っています。大学院に行くときに、MBAではなく社会学に行ったのはそんな背景も影響しているかも。このレベルの問題意識から読んでた本が、すぐに思い出す限りで、立岩真也『希望について』、森健『インターネットは僕らを幸せにしたか』、国領二郎『オープン・ソリューション社会の構想』、マイケル・ガザニカ『脳のなかの倫理』など。結果として、このレベルの本を一番たくさん読んでいる。雑誌では「フォーサイト」を取ってる。直近で読みたい本としては、小熊英二『民主と愛国』、リチャード・ローティの『偶然・アイロニー・連帯』を読みたいね(積読状態なので)。このレベルは数十年単位のタイムスパンでずっと続くと思う。

問題意識の強さとしては、昔は3.2.1.で今は2.3.1.かな。最近は2のレベルを読むことが多いし。Javaやんなきゃマズいんだけど。。。

そんな感じで、本を読む理由の回答です。まとめると、問題意識なくして思考なし。幸せだったら、本を読むなんて面倒なことはしないと思う。逆に本を読んで知らずに済んだことを知ってしまうから、ますます「不幸」になるともいえるけど。本を読む・読まないは、その人の価値観を反映した選択だし、どちらが良いとはいえないけど、本なんか読まずに適当に資格とかとって物質的に楽しく生活している人が多い方が「善い社会」かもしれない。

以下、言及した本

仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法

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アメーバ経営―ひとりひとりの社員が主役

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フラット化する世界(下)

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富の未来 上巻

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ひと月百冊読み、三百枚書く私の方法

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Javaの哲学

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アナリシスパターン―再利用可能なオブジェクトモデル (Object Technology Series)

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  • 作者: マーチンファウラー,Martin Fowler,堀内一,友野晶夫,児玉公信,大脇文雄
  • 出版社/メーカー: ピアソンエデュケーション
  • 発売日: 2002/04
  • メディア: 単行本
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