著作権と塾

最近、塾のなかで問題になっているのが過去問題集のコピー。ちょうど受験の季節に近づいてきたこともあり、著作権に触れやしないかとナーバスになっている。一連の発端は塾や出版社が作者に無断で問題を作成し、それを販売していたのが、作者から訴えられたということ。それを受けて色んな塾で著作権についてはナーバスになっている模様で、自分のところも例外なくナーバスになっている。

そこでにわか勉強してみると、著作物とは

文芸・学術・美術・音楽の範囲に属し、思想または感情を創作的に表現したもの(2条)*1

である。そして著作権法の目的とは、

著作者の権利を定め、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的(1条)*2

とするとある。

著作者の権利とは、

公表権(18条)、氏名表示権(19条)、同一性保持権(20条)の三つの著作者人格権と、複製(21条)、上演及び演奏(22条)、放送・有線通信等(23条)、口述(24条)、展示(25条)、上映及び頒布(26条)、貸与(26条の2)、翻訳・翻案(27条)、二次的著作物の利用(28条)につき権利を専有すると定めている*3

要するに著作権とは上記の内容に関する著作物に対する排他的独占権である。

しかし著作権も制限される場合があるらしく、

図書館等(での複製*4)(31条)、教科用図書への掲載(33条)、学校教育番組の放送等(34条)、学校その他の教育機関における複製(35条)、試験問題としての複製(36条)、点字による複製等(37条)、営利を目的としない上演等(38条)、時事問題に関する論説の転載等(39条)、政治上の演説の利用(40条)、時事の事件の報道のための利用(41条)、裁判手続き等における複製(42条)、翻訳・翻案等による利用(43条)、放送事業者等による一時的固定(44条)、美術の著作物等の原作品の所有者による展示(45条)、公開の美術の著作物等の利用(46条)、美術の著作物等の展示に伴う複製(47条)等の規定の中で、法人について著作権が制限される場合を定めている*5

では塾で問題になっている複製について考えると、著作権法21条で著作者のみに複製する権利を認めているのだが、著作権の行使を制限する条項の1つに30条1項というのがあり、

著作権の目的となっている著作物(略)は、個人的又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(略)を目的とする場合には、公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複写機器(略)を用いて複製することを除き、その使用するものが複製することができる」と規定している*6


要するに著作者の経済的利害を犯さない程度の私的利用(のための複製・上演)は可であると。実際問題、そうした私的利用を一々チェックすることのコスト・ベネフィットが割りに合わないような場合には、排他的独占権である著作権も制限される(してもらう)ということである。

こうしたことを踏まえると、試験問題作成のために複製するのは36条にあるように可能だが、それを頒布したりするのは認められておらず著作者の経済利害を犯すので不可。このことで実際に学習教材を巡って裁判になっている。

また個人が合法的な学習教材(違法にあたる学習教材を別として)を購入して私的利用することは30条1項にあるとおり可。公的目的ではなく私的目的で部分的にコピーすることも可だろう。ただ学習塾が学習教材を購入して複製するのは私的利用のための複製とは言えず、著作者の経済的利害を犯す可能性が高いので不可だろう。学校なら35条にあるように公的利用として複製して可だろうけど。

でもそもそも学習教材が著作物なのか、つまり思想または感情を創作的に表現したもの(2条)といえるかどうかも問題だが、教材の中の問題の組み合わせ方に創作性が認められるため、著作物とする判例もあるらしい。英語や国語も文章の著作者から権利を買って問題集を作れば、その問題集は合法的に販売可能。ただ無断で問題集を作って売るのは違法と。

インターネット上に落ちている問題を拾って塾で使用するのは、問題を作って売るのと同じなので厳密には違法だろう。

まとめると、問題を作成という1次利用は36条にあるように可、しかしそれを売るのは2次利用にあたるので、28条で保護される著作権に触れると。ただ私的利用に限っては複製による2次利用も30条1項で認められるということだろうか。

あくまでもにわか勉強によると上記のことが言えそうだ。さらに厳密なケースについては専門家に聞くしかないのだろうけど。

マルチメディア社会の著作権 (Keio UP選書)

マルチメディア社会の著作権 (Keio UP選書)

少し話は変わるが、著作権の拡大に対するアンチとしてレッシグの一連の著作。

CODE―インターネットの合法・違法・プライバシー

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コモンズ

コモンズ

Free Culture

Free Culture

*1:苗村・小宮山編(1997)P110

*2:苗村・小宮山編(1997)P111,112

*3:苗村・小宮山編(1997)P112

*4:引用者による補足

*5:苗村・小宮山編(1997)P140

*6:苗村・小宮山編(1997)P114