特殊法人民営化について

<1.はじめに>
 今回、私達が取り扱ったテーマは「特殊法人民営化」である。具体例としては、今回は数ある特殊法人の中でも道路公団を扱った。


<2.特殊法人とは>
 特殊法人とは特定の法律に基づいて、政府が命じた建設委員によって設立された。総務省の見解によると、特殊法人は行政機関では制約が多く能率的に運営できないが、政府が必要とする事業を自主的・弾力的に運営していく機関である。では、特殊法人は上に掲げられた本来期待されている目的を果たしているのか?答えとしては、「かつては」目的を果たしていたといえるだろう。しかし、現在においては各方面から批判が聞こえてくるように、もはや特殊法人は日本の負の遺産と言ってもいいだろう。


<3.問題の背景>
 では具体的な問題を特殊法人の代表格である道路公団に見ていきたい。

3.1 道路の使用頻度の問題
 問題としてよく言われているのが、「誰も使わないような道路が多数建設されている」という声に代表されるように、きわめて使用頻度の低い道路の存在である。そうした道路建設の背後にあるものとして、私は考えられることが4つあると思う。1つめは「予測の不徹底」である。2つめは「償還計画の延長」である。3つめは地元議員の意向による、「不必要な事業誘致」である。最後に「説明責任の不徹底」である。

 それでは、上にあげた4つの問題点について順次考察を試みる。最初の「予測の不徹」について考えるならば、道路公団に代表される特殊法人は民間企業であれば当然考える「利益」の意識が少ないのではないだろか?つまり彼らにとって大事なことは「過去にやってきたことの継続」および「財源の確保」であると私は考える。これまで道路をつくってきた彼らにとって、当然のことながら道路を建設しないことは仕事を失うこと、減らすことを意味する。また道路を作りつづけないといつ財源を減らされるかわかったものではない。さらに彼らの意識について、もっと言うならば、「全体のことはわからないがとにかく道路を作りつづけることが国民のためになるんだ」という意識があるように思う。まさにこれらは他の大組織にも見られるような「組織の官僚化」にほかならない。日本の官僚機構の特色として、過度に専門化、分断化され自分がやっていることは果たしてどういう役割をはたしているのか分からないことが挙げられる。そして、わからないからこそ、過去をお手本にする。伝統主義―過去にやった、あるいは過去に行なわたという、ただそのことだけで、将来における自分たちの行動の基準にしようとする倫理あるいはエートス大塚久雄『社会科学における人間』岩波新書 1977年)―の成立である。しかも、官僚および官僚化された人々は自分の行為が国民、および他人にとって有意義なものであると信じている。官僚化された組織にとって重要なのは「利益」よりも「伝統主義」と「保身」である。以上で考察されたように、私は「予測の不徹底」の原因の1つとして「組織の官僚化」を考えた。

 2つめの「償還計画の延長」もまた1つめの「予測の不徹底」と同じ論理があてはまる。そもそも、官僚化された彼ら道路公団は「利益」の概念が欠如していて「予測が不徹底」なのだから、結果として「償還計画」をたてられるはずがない。「予測」がいいかげんなのにどうしてまともな「計画」が立てられようか?上では考えられる問題として「予測の不徹底」と「償還計画の延長」をあげたが、実はこの2つはコインの表と裏の関係である。本質は組織の官僚化に求められる。

 では3つめの「不必要な事業誘致」を考えてみよう。地方出身の議員にとって、何よりも重要であり、かつ地元の人たちが求めているのは「大きな建設事業の誘致」と「より多くのお金を地元に下ろしてもらう」ことである。なぜならば、地方議員は多くの場合、地元の有力者の支持をもとに中央政界にうってでる。強い地盤をもたない議員にとって地元の有力者とのパイプは中央政界への道なのだ。逆にいえば、そういった地元の有力者の支持がないと活躍は見込めないのである。当選させてもらった恩として、大きな建設事業をもってくることが必要なのである。また地元の有力者にとっても、大きな建設業を誘致してくれることは大きな仕事を行なえることであり、それは「お金が儲かる」ことである。そして地元の人たちにとっても、大きな建設業は仕事を提供してくれることになる。こうして地方議員と地元の有力者、建設業者との結びつきが完成する。この現象は強い地盤を親から授かった1部の2世、3世議員を除き、国会議員一般に見られる現象、つまり政治システムであると考えられる。したがって、「不必要な事業誘致」は政治システムが内包する問題と言える。

 最後に4つめの、「説明責任の不徹底」についてかんがえたい。説明責任の不徹底とは、国民に知らせておかなければならないことを知らせていない、ということである。また、あるべき状態を知らせていないだけではなく、間違った、偽りの現実を知らせている。説明責任の必要性を説くカレル・ヴァン・ウォルフレンのことばを借りるなら、「偽りのリアリティ」ということである。(『日本を幸福にしない日本というシステム』毎日新聞社 1994年)では実際の例でこのことを考えてみよう。マスコミ、国民の「いらない道路、使えわれない道路をつくるな」という批判に対して道路公団側は「道路がまだ必要な地域がある。だから道路をつくりつづける必要がある。」と反論する。ここで、注目すべきことは、マスコミや国民が主張しているのは既存の不必要な道路に関していっているのである。しかし、公団側の主張は未来の作る予定の、つくられるであろう道路について言っている。つまり、論点がずれているのだ。一見、批判に答えたかに見せかけて、論点をずらすことによって実は答えていない、というトリックが存在するのである。では公団側が批判にたいして、「あの道路は必要だからつくったのだ。」と反論した場合はどうだろうか?これは「必要」という概念が数値化されないことをついたものである。「必要」「不必要」を論じる時に、数値化できないことが表しているように明確な判断の基準は存在しない。つまり、「必要」「不必要」はある意味個人的な主観の問題である。絶対的な基準は存在しない。では、国民レベルで「必要」「不必要」を論じる時に、何をもって判断するかというと必要かどうかを感じる国民の数で表される。多くのひとが必要と答えたものが必要なのである(必要とみなされるのである)。だから、どんなに多くのひとが必要でないと感じて「不必要だ!」と叫んだところで、「あの道路は必要だからつくったのだ」と開き直られると、国民の意思を表す選挙制度もない道路公団を明確に追い詰めることは極めて難しい。また、根本的なこととして「情報の独占」こそが官僚組織の原動力なのであるから、自ら権力を減らすような行為はよほどのことが無い限りおこなわれないであろう。
 こうして、いいかげんな事業の隠れ蓑として「説明責任の不徹底」がまかり通る。

3.2 財政的な問題
 道路公団に代表される特殊法人は財政的な問題も存在する。大きく4つある。最初は「特別会計予算」であり、2つめは「プール方式の決算」である。3つめに「減価償却(無くなった資本、壊れた資本も数える)や除去をしない会計上の不備」である。最後に道路特定財源のような「各公団独自の財源の存在」である。

 まず1つめとして、特別会計予算とは、特定の資金で特定の事業を行なうため、一般会計とは別に個別事業ごとに設立される会計のことである。実際、特別会計予算の実態はどうなっているのかというと、国の公共事業の6割は特別会計予算を使って行なわれている。また、特別会計では根拠となる法律に1文を加えれば拡大解釈によって何でもできてしまう。(猪瀬直樹『一気にわかる!特殊法人民営化』PHP研究所 2001年)そして、特別会計予算の存在は一般の人にはあまり知られていない。つまり、特別会計予算というのは特殊法人にとっては、振ればお金がどんどん出てくる「打ち出の小槌」のようなものなのである。また、特別会計夜予算の仕組みは非常に複雑であるため、都合の悪い予算は一般の予算ではなく特別会計予算に組み込んで「飛ばす」ことが可能なのである。そして、特別会計予算を使い切るように公共事業を行なうのだ。まったく、都合のいい話である。

 2つめの「プール方式の決算」を考える。プール方式とは儲かっている(黒字の)ところと儲かっていない(赤字の)ところを一緒に決算する方式である。例えば、道路公団で言うと、日本道路公団首都高速道路公団阪神高速道路公団は黒字である。だが、本四連絡橋公団は赤字なのである。そして、全体で見た場合、道路公団全体では黒字となるのだ。このことも、必要のない道路建設に一役かっているのである。赤字の道路をつくっても、黒字の3公団に隠れてしまうからだ。

 3つめは「減価償却をしない会計」である。未だに単式簿記をもちいているため、固定資産の除去損がないから、無くなったものや壊れたものも「資産」として計上している。つまり欠損を隠しているのだ。会計上の損得に気を使っている民間企業ならこんなことは起こり得ないだろう。まさに過去の遺物をまだ使っているのである。

 最後にもっと具体的な特殊法人の財政上の問題を見ていこう。例えば、道路公団の場合、「道路特定財源」の存在である。「道路特定財源とは、受益者負担の原則に基づいて、自動車利用者が利用に応じて道路の整備費を負担するものであり、揮発油(ガソリン)税や軽油引取税石油ガス税自動車重量税や自動車所得税などの「目的税」として徴収されている。」(前掲書 139項)この道路特定財源はかつて、高度成長期には急速にインフラ整備をするために非常に力を発揮した。しかし、現在においてはかなりインフラも整備されてきたこともあり、税収が普通に必要な支出(維持費等)を大きく上回るようになっている。したがって、官僚機構の特徴として、その税収を使いきろうとすれば自ずと不必要な道路を建設することになるだろう。その余ったお金を他のところに回そうという発想はみられない。
 以上、いろいろと見てきたが、特殊法人はお金にたいして非常にルーズなことが分かるだろう。しかも、そのお金の出所は「国民の税金」でなのである。


<4.問題の重要性>
 以上、様々のべてきたが、問題解決に向けてこれまで解決がなされてこなかったわけではない。橋本龍太郎首相時代に改めようと努力がなされてきた。しかし、橋本構造改革は頓挫した。問題はそのまま残ったのである。問題は道路公団に代表される特殊法人事業の非効率性、不必要性が日本の財政を圧迫しているのである。日本政府の赤字は対GDP比130%、666兆円にまで膨れ上がっている。もう言うまでも無いことだが、日本は財政的に非常に追いこまれた状態であり、経済的にも「平成不況」である。経済の血液であるマネーがまわっていない。もはや瀕死の状態と言っても過言ではない。そんな中にあって、これ以上無駄な公共事業が許されてもよいのかということだ。また公共事業につかった歳出、これから見込まれるであろう年金問題をカバーするには当然歳入も増やさなくてはならない。つまり、官僚機構の無駄遣いが国民の税金アップつまり痛手へとつながっていく可能性があるのだ。そして元は日本の官僚機構、選挙システムといった、歴史の産物である政治システムの問題ということなのである。


<5.問題の記述>
 特殊法人の問題は「現状を打破したいとかんがえている人たちと既得権益にすがる人たちの抵抗」である。では、既得権益を享受している人はどんな利益があるのか?まずは「天下り」である。例えば、道路公団から建設機構への天下りである。道路公団で働いたあと、その知識をいかして民間の建設業者にあまくだり、そこで莫大なお金をもらっている人たちはまさに既得権益を守ろうとする。また、地元への事業誘致で得をえていた国会議員と地元の有力者である。いわゆる「政・官・業の鉄のトライアングル」が成立しているのである。一方、現状を打破したいとかんがえている人の代表は小泉純一郎首相であろう。小泉はこれまでの政治家とはかなり変わっている。小泉は森喜朗前首相をうんだ「密室政治」批判のなか、世論の圧倒的な支持をうけて首相になった。世論の追い風があったからこそ首相になれたのだ。彼は自民党のなかでも、非主流派であった。その原因は彼自身の郵政3事業民営化に代表されるような党の利益に反するような政策や集金能力の低さからであった。金集めが出来ない政治家はけっして主流派になることはない。派閥が形成できないからである。では小泉はなぜかくもはっきり特殊法人民営化を主張できるのか?その答えは彼自身の政策色もあるだろうが、つまるところ既得権益から得るものが少ないのだろう。既得権益から得る利益がすくないため、特殊法人を民営化しても、国民の支持をえるだけで失うものは少ないのだ。また彼は3世議員でもあるから、地盤が磐石である。つまり、わざわざ地元に帰って支持を取りつけなくても、選挙に勝てるのである。だから、既得権益に関係をもちにくい。したがって、民営化を主張できるのだ。


<6.民営化の目標と目的>
 では、道路公団を含む特殊法人民営化とはどうすることなのか?小泉の掲げる民営化の理念は「官業は民業の補完に徹すべし(小泉純一郎『官僚王国解体論』光文社 1996年 115項)」ということだ。具体的には4点である。まず第1点は「民間に出来ることは民間企業へということ」。第2点は「同様な事業は統合して進めること」。第3点は「当初の目的を達成した法人は廃止すること」。第4点は「収益の見込みが無い法人は手立てを講じて廃止すること」である。つまり、「より効率的な事業運営を行なっていこう」ということである。

 では、民営化が行なわれればどうなるのかというと、以下のとおりである。まず、特殊法人時代は特別会計予算に代表されるように、どんどんお金をもらって、つかっていたが、それをストップすることによって国民の負担が減少する。次に、徹底した会計を行ない、競争原理(インセンティブ)を導入することで、効率的な経営に切り替えることができ、クオリティの高い品を提供できるよう努力するようになる。なぜならば、民間企業は利益をあげることが目的であるからして、もしも利益があがらないと倒産を余儀なくされるからである。そして、これまでの特殊法人は官僚機構であったため、損をしてもそのまま事業を続けるものであったが、それを防ぐことができる。最後に、民営化が上手くいっているかどうかの判断は第3者機関に判断してもらうことにする。第3者に判断してもらうことにより、より厳正、公正な判断を期待できるということだ。


<7.今後予想される政策>
 結局、特殊法人改革は17法人が廃止、45法人が民営化されることになった。当初小泉は163の特殊法人認可法人をすべて「原則廃止か民営化」をかかげていたことを考えると完全に特殊法人民営化が進んだとは言いがたい。特に金融系では、住宅金融公庫を除く8つの政府系金融機関の見直しは先送りされ、道路公団も「民営化」という基本方針が決まったに過ぎない。これら道路公団の民営化の具体的な姿は新たに設置する第三者機関で検討され2002年の通常国会で法案を提出することとなった。では、現在考えられる特殊法人の代表格、道路公団の具体的な民営化の方針を考えてみたい。

 最終的には分割されるものと思われる。国鉄からJRに変わった時と同様である。しかし、4つある道路公団の3つは黒字であり、1つは赤字である。したがって、最初から分割するのではなく、いったんまとめて本四連絡橋公団の赤字を他の3公団の黒字で埋め合わせて、それから分割民営化されるのではないか。そして、高速道路整備計画(総延長9342キロ)は見直しされるだろう。なぜならば、いま建設予定道路の建設を止めた場合にかかる政策コストは3兆4615億円である。しかし、これは現在の整備予定区間である9342キロまで作ることを前提とした場合である。もしも、それより前で建設をやめればもっと安くなるからである。あと、毎年3000億円に上る国費投入は来年度から廃止。また建設費の償還期間は50年を上限にできるだけ縮減する。

 
 <8.結果的な影響>
 民営化の結果として、起こり得ることは既得権益の現象が挙げられる。例えば、道路公団が民営化された場合、無駄な道路の建設要請が減少し、建設業者に勤務する人のリストラが起こり得る。これはまさに小泉の言う構造改革にともなう「痛み」であろう。しかしその一方で、民営化することによって政・官・業の鉄のトライアングルが打ち破られる可能性がある。民営化することで、不必要な事業誘致が不可能となり、つまり工事を発注しなくなる。それならば、国会議員に票を入れる必要も無くなる。選挙における力点が変わることで、選挙システムが変わる。つまり特殊法人の民営化はこれまで続いてきた政治システムを変える可能性を秘めているのである。あとは政府系金融機関の民営化が残された大きな課題といえるだろう。

<9.参考文献>
大塚久雄『社会科学における人間』岩波新書 1977年

カレル・ヴァン・ウォルフレン『日本を幸福にしない日本というシステム』 篠原勝訳 

毎日新聞社 1994年

猪瀬直樹『一気にわかる!特殊法人民営化』PHP研究所 2001年

小泉純一郎『官僚王国解体論』光文社 1996年

http://www.nikkei.co.jp/ NIKKEI NET

http://www.asahi.com/ アサヒ.コム