第十四回

2 使用データ

 使用するデータとしては、NHK放送文化研究所が1996年に実施した『全国県民意識調査』を使用する*1
 この『全国県民意識調査』について述べておくと、この調査は全国47都道府県で同一質問による世論調査を、同じ時期に実施し、日本人の意識構造の特徴は何かを明らかにするために実施したものである。調査の時期は1996年6月28日(金)から7月7日(日)までである。調査方法は個人面接法で、各都道府県16歳以上(1980年以前生まれ)の住民が調査対象となっている。調査の相手は各都道府県900人(12×75地点)で、全国計42300人である。有効回答は各都道府県ともおおむね70%程度で全国では有効数29620人、有効率は70%となっている。
 それぞれの質問に対して「そう思う(はい)」「そうは思わない(いいえ)」「どちらともいえない」「わからない、無回答」で答えるものである。
 回答は全体計のみならず、基本属性として、男女別、男女年齢別、職業別(農林漁業、自営、販売サービス、技能熟練、一般作業、事務技術、経営専門、家庭婦人、生徒学生、無職、その他)、生粋県人(本人、父、母ともにその県出身者で、本人が1年以上他県に住んだ経験がない人)、地域別といった属性で回答が分かれている。

 そして今回ソーシャル・キャピタル・インデックスを作成するにあたって使用するのは、
・ 第9問 人とのつきあいかたについてうかがいます。リストのような2つのつきあいかたのうち、あなたはどちらが望ましいと思いますか*2
・ 第10問A お宅では、日ごろつきあっている親せきは多いですか
・ 第10問B 親せきには信頼できる人が多いですか
・ 第10問C お宅では、隣近所の人とのつきあいは多いですか
・ 第10問D 隣近所の人には信頼できる人が多いですか
・ 第11問A 仕事以外のことでもつきあうことは多いですか
・ 第11問B 職場や仕事でつきあっている人には、信頼できる人が多いですか
・ 第19問  からだの不自由な人やお年寄りのためのボランティア活動をしてみたいと思いますか
・ 第21問C あなたは地元の行事や祭りには積極的に参加したいと思いますか
・ 第21問D あなたはこの土地の人びとの人情が好きですか

という、以上10問について「「はい」と答えた%」を実際に生データとして使用する*3
 そしてソーシャル・キャピタルの理論的な定義である「人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を改善できる、信頼、規範、ネットワークといった社会組織の特徴」(Putnam 1993=2001: 206-207)に沿うように上記の質問を分類する。具体的には第10問B、第10問D、第11問Bを信頼に分類し、第19問、第21問C、第21問Dを規範に、第9問、第10問A、第10問C、第11問Aをネットワークに分類した。そしてさきほど述べたように、データは標準化して使用する。

3 データの傾向性について 
 まず理論的に1節で示された作成方法が、具体的なデータレベルでどの程度妥当かを見る。そのために因子分析を行い、それぞれの要素の間に共通性がどの程度あるのかを検証する。以下はその因子分析の結果である。なお因子分析にあたっては信頼、互酬性の規範、ネットワークを標準化した後、平均したものに対して因子分析を行なった。


表 1 因子分析の結果
     成分
      1
TRUST .890
NETWORK .935
RECIPRO .892
SCINDEX 1.000
因子抽出法: 主成分分析


 結果としては、主成分分析によればソーシャル・キャピタルを構成する3要素の間には同じような傾向がかなり見られることから、この三つの要素をもとにインデックスを作成することはデータレベルでも妥当だといえる。この結果を踏まえて上記の三つの各データを平均し、合成変数であるソーシャル・キャピタル・インデックスを作成した *4

第6章では、作成したソーシャル・キャピタル・インデックスを使って実際に実証分析を行う。

*1:この『全国県民意識調査』はNHK放送文化研究所が実施しているのだが、1973年から5年ごとに実施されている『日本人の意識調査』と異なり、第1回調査が1978年に、第2回調査が1996年に実施された。本稿でも9年の時間が経過したとはいえ、最新版である第2回目調査の結果を使用する。

*2:この質問は「なんでも相談したり助け合えるつきあい」か「お互いのことに深入りしないつきあい」のどちらかを選ぶものであり、結果には「どちらともいえない」「わからない、無回答」も含む。

*3:第9問については「なんでも相談したり助け合えるつきあい」が望ましいと答えた%を使用する。

*4:インデックスの男女別、年齢別分析については補論を参照のこと。