『哲学する民主主義』(以下本書)のまとめ

修士論文ソーシャル・キャピタルの研究です。ゼミでパットナムの本を読んだ時が自分のソーシャル・キャピタル研究の原点だったように思います。

哲学する民主主義―伝統と改革の市民的構造 (叢書「世界認識の最前線」)

哲学する民主主義―伝統と改革の市民的構造 (叢書「世界認識の最前線」)

以下は学部の時に書いたものですが、改めて掲載。

第1章 はじめに
 本書はイタリアでの20年にわたる経験的方法により、制度パフォーマンス、民主主義の質といった理論的な問いに対し答えを出すものである。
 
 従来の社会科学では、
①制度デザインを強調するもの ②社会経済的要素を強調 ③社会文化的要素を強調

本書は多様な手法を用いつつ、
「強力で、応答的で、実行ある代議制度を創出する条件とはいかなるものなのか」
(本書 P7)
という問いに答えを出す。


第2章 制度改革の過程
 統治ルールの変更=「州」制度の創設
 ⇒州政府の存在がエリートの政治文化を変えた。よりプラグマティックに。
 ⇒草の根政治が広まり、政治が身近なものなった。
 ⇒州ごとにバラツキが生じた。


第3章 評価基準の提示
①包括性 ②内的一貫性 ③信頼性 ④制度主唱者と選挙民の目標・評価の一致(P76)
に基づいて12の指標(詳しくはP79〜87参照)とその相関を測定。

⇒やはり州ごとに制度パフォーマンスに差異がある。
しかも政党忠誠心よりも客観的な制度パフォーマンスの方が満足心を説明する。


第4章 制度パフォーマンスの差異の理由づけ
①社会経済的近代性 ②市民共同体、の観点から
⇒ 社会経済的近代性  制度パフォーマンス
        ↓↑   ↓↑
         市民共同体

民度が高い州だと市民が積極的に諸問題に参加し、指導者も社会的ヒエラルキーより民主主義を信じている。市民度が低い州はその逆。
 ⇒市民度が制度の働き具合にとって重要である。


第5章 市民性はなぜ異なるのか―歴史的観点から
 中世北イタリアでのコムーネ共和制は統治パフォーマンスと経済社会の両方を改善。
⇒市民共同体の雛型。一方南部は封建的であった。(P162参照)

 そして、市民的伝統は引き継がれ、それに経済が付随する。(P192参照)
つまり、制度がうまくいくかは過去の歴史によって決まる。
「豊かさの実現と市民度の向上」という好循環
「貧困と市民度の低下」という悪循環


第6章 社会資本と制度
 「協力」は繰り返しゲームにおいて有効。つまり相互信頼が相互の効用をたかめる。
 ⇒では、そのような協調的な制度はどうして供給されたのか?

答えは
「自発的な協力がとられやすいのは、互酬性の規範や市民的積極参加といった形態での社会資本を、相当に蓄積してきた共同体である。」(P206)ということ。

 つまり
自発的な協力は、社会資本によって促進される。(P207)
           
ネットワークから考えると、市民参加ネットワークは強い結合よりも弱い結合のほうがよい。

市民的積極参加のネットワークの形となって現れた社会資本が政治や経済のパフォーマンスをたかめる。(強い社会、強い経済。強い社会、強い国家)


結論
社会資本の蓄積は容易ではないが、社会資本は、民主主義がうまくいくための鍵となる重要な要素である。(P231)